チルコット/『ゆりと薔薇』考察

「The Lily and The Rose」についての私的解説

 

The maidens came When I was in my mother’s bower, I had all that I would.

The bailey beareth the bell away; The lily, the rose I lay.

The silver is white, red is the gold; The robes they lay in fold.

The bailey beareth the bell away; The lily, the rose I lay.

And through the glass windows shines the sun, How should I love, and I so young?

The bailey beareth the bell away, The lily, the rose, I lay.

 

◇チルコットの解説文訳(SATB 版)( 本文中の注意事項)

 この魅力的な中世の詩の意味は、いまだに解明されていません。 知られている最古の資料は 16 世紀の大英図書館にあります。 この原文は 1907 年に近代版で初めて印刷されました。また、ヘレン・ガードナー編集の『新オックスフォード 英語詩集』にも「The Bridal Morn」(婚礼の朝)というタイトルで掲載されています。 「百合と薔薇」は聖母マリアの象徴として読むことができ、おそらく最も有力な解釈です。 詩は息子の死を迎えたマリアの朝の詩です。 「鐘を持ち去る」ことと「ベイリー」へのたとえはこれを裏付ける ものと思われます。中世では、死を確認するために遺体の上で鐘が鳴らされ、ベイリーは「保管する」の同義語 であり、 遺体が埋葬される可能性がある、ということです。 鐘は執行官によって連れ去られる「美しい人」、 つまり神を意味することでもあります。 「銀は白、赤は金」は、聖母マリアの純粋さが、瀕死の息子が流した血 の赤よりも下にある(劣っている)と解釈できるかもしれません。※1 現代の別の解釈では、この詩は次のことに関係していると考えられます。 結婚式当日の若い女の子の恐怖と心の動揺を描いたもので、『新オックスフォード英語詩集』のタイトルになっ ています。 確かに、母親、窓、太陽の光への暗示は、庇護と自由のイメージとして読み取ることができます。

 

*******************************

 

以下は解説にはありません!

※1 フランス語の「美しい人」を意味する「Belle」に重点を置くと、美しいイエスは執行吏、つまり神によっ て天に生まれた。この解釈であると、白い銀は神の子を産むためにマリアが処女を捧げた賜物を指す。それは 素晴らしい捧げ物ではあるが、全人類のために流されたキリストの血の赤い黄金に比べれば見劣りする、のでは ないか?

 (それをもとに私なりの歌詩訳)

「百合と薔薇」 侍女たちがやって来ました 母の私室にいたときに 私はのぞんだとおりになりました 城壁を伝って響いてくる鐘の音 ※ 百合の花、薔薇の花 私は横たわる 銀は白、金は赤 花嫁衣裳は畳まれています 城壁を伝って響いてくる鐘の音 百合よ,薔薇よ,わたしは横たわる ガラス窓の向こうに太陽が輝いている わたしは若いのに こんなに若いのに!どうして愛することができましょうか 執行官が鐘を打ち鳴らす ※The bailey には執行官という意味もあり他と同じ歌詞ですがあえて変えてみました。 百合よ、薔薇よ、私は横たわる 15 世紀、16 世紀のイギリスは、エリザベス 1 世やその父親のヘンリー8 世の離婚問題で、離婚を許さなかった カトリック教会から脱会して、独自の英国国教会を作った時代。国内もばら戦争がやっと収束したころで、領土 問題でゴタついていました。文学界ではシェイクスピアが出張ってきたころ。 当時ガラスは貴重品なので、窓ガラスがある家といえば庶民の家ではなく貴族の城。それなりの身分の高い家柄 だったのでしょう。ガラスも当時は純正度が低いと思うので、明るいけれど鈍い太陽の光でしょうか。当時の貴 族の女性のたしなみは刺繍したり縫物したり、クイリングという紙を巻いた芸術品が残っており、細かい作業が 多かったので、鈍い光の元で刺繍をする少女の姿が浮かびます。 貴族の女性の初婚は 15 歳 16 歳が普通でしたが、それでも自分は若い、と詩に書かれていることから、もっと若 い 12、3 歳だった可能性もあり。顔も見たことがない、一回りも二回りも離れた年上の男の人と結婚しなくてはならない、それが常識だった時代の悲しい詩です。 ちなみに、教会の鐘の音は時刻を知らせるものと、冠婚葬祭時に鳴らすものがあるそうです。これはおめでたい 方なのか、悲しい方か、どちらなんでしょうか?また、それぞれの教会によって微妙に音が違うようです。鋳造技術に差があるのでしょうか。田舎に帰省して鐘の音を聴くと、ああ、帰ってきたなあ~って思うそう。 チルコットの解説にあるようにイエスとマリアを関連付けてみると、文字の持つ意味は深読みすると純潔や尊厳、 血、殉教などありますし、チルコットもそのように理解しているようですが、詩にある「銀は白、赤は金」とい うフレーズは、八百万の神の国の日本人にはなかなか理解し辛いところもあります。宮内